「公文書に載らない東京都政と杉並区政」

杉並一筋で政治活動を続けてきた著者が、今まで関わってきた東京都政、杉並区政を振り返り、いかに行政の障壁を突破してきたか、どう跳ね返されたか、その軌跡をまとめた一冊。
東京五輪に築地市場、新型コロナ、そして3・11―杉並一筋の政治家の軌跡から、東京の将来像を考える。

書名 公文書に載らない東京都政と杉並区政
書名読み コウブンショニノラナイトウキョウトセイトスギナミクセイ

ISBNコード 978-4-88614-277-1  Cコード C0031
ページ数 282ページ
著者  田中良
発行年月日 2023年3月31日
定価 本体価格1819円+税

本書刊行に寄せて

田中良さんの直球の軌跡 日本郵政社長 増田寬也

 本書は、議会人として、また、行政のトップとして、長い間東京都政や杉並区政に携わった、元都議会議長・前杉並区長田中良さんの軌跡を本人が包み隠さず素直な筆致で著した貴重な記録である。

  田中さんを一言で表すと、常に直球で勝負の人、下手な小細工を弄することなく、信念に基づいて真直ぐに進んでいく人との印象がある。私と田中さんとの出会いはそれほど古いわけではない。本書にも記載されているが、杉並区民向けの特別養護老人ホームを静岡県南伊豆町に開設するという構想を、国や静岡県と粘り強く交渉してついに実現にこぎ着けたと聞き、直接お会いしたのが最初である。その後、私は都知事選に出馬、敗北した直後、田中さんから声掛けがあり、杉並区の地方創生担当顧問に就任した。そして、圧倒的な財政力の差を背景に、上から様々な課題を押しつけてくる東京都に対し、苦悩しながら果敢に対峙する田中区政を間近に見ることとなった。そこから見えたのは、直球勝負とともに原理原則を実に大事にされて、物事の交渉に臨んでいる田中さんの姿であった。 「そもそもこの制度は何のために作られたのか。そして、今の運用は区民のために本当に役立っているのか」。田中さんは、いつもこのことを自問自答しながら事に当たっていたように思う。これは、交渉の相手側から見ればとても手強いし、それ故、時には誤解される事もあったかもしれない。しかし、決して人気取りに走ったり、有力者に媚びることなく、都民や区民のためにという強い信念を持ち続けながら歩いてきたのは間違いないだろう。

 本書は、田中さん自身が自らの足跡を、ある意味、赤裸々に余すことなく書き下ろしており、とても興味深い。これをきっかけに、政治を志す人のみならず、多くの人々が地方行政に深い関心を寄せることを願ってやまない。


議論好きの田中良さんと民主主義 明治大学名誉教授・博士(政治学) 青山 佾

 田中良さんの人物を一言で表現すると議論好きの一語に尽きる。実は親しみやすい人なのだが、初対面でも、これはという人に対しては自分の意見をぶつけてくるので、びっくりする人もいるかもしれない。

 10年以上前のことだが、私は教え子と待ち合わせして阿佐ヶ谷駅に行ったら、田中良さんが都議選の演説をしていた。普通だったら自分の名前を繰り返したり、多岐にわたる各種政策をひと通り語るのだろうが、田中良さんはその時は福祉政策のあり方について、理念的な話を延々としていた。具体例は出てくるが、繰り返しは一切ない。スローガン的な話もない。起承転結すべてを語り尽くそうとする。

 だから田中良さんの演説に耳を傾けて入り込めば聞き応えがある。断片を聞いてもわからない。足を止めて聞きいればよいのだが足早に通り過ぎる人には効果がないだろう。 それなのに選挙に強いのはなぜかというと、一つは、選挙区内の要所要所はきちんと押えているからだ。地元を掌握して、区民の求めていることは肌感覚を含めて理解している。 田中良さんから私にたまに電話がかかってくると長電話になる。たいてい意見が違うし、私も向こうも一歩も譲らないからである。 そういう田中良さんが書いた本だから、本書は政治家の回顧録を超えて、政策議論の書となっている。批判を受けることを避けようなどという慎重さはなく、率直で明快な本となっている。基礎自治体の本音を語ってやまない。都議会時代の話も本質的なことが表現されている。

 民主主義は議論から始まる。批判を恐れず率直に意見を出し合い、最後は力ずくではなく相互理解で譲るところから民主主義が成り立っている。田中良さんはメディア出身の故か、そういう民主主義を体現する政治家の代表選手の一人だと思う。本書は田中良さんが在野から出版する本だから余計、価値ある本となった。

目次

第1部 東京都政

第1章 見過ごされた問題―東京五輪

〝都立〟のメインスタジアム 
自民党の重鎮と―国会決議の行方 
招致の「顔」は誰か 
非科学的な科学者の説明

第2章 東京都の懸案―市場移転

築地市場移転の真相 
新たな火種―小池知事による移転延期宣言
もう一つの跡地活用プラン

第2部 杉並区政

第3章 未知の脅威―新型コロナ

得体の知れぬ恐怖
医療崩壊を阻止せよ
救急車が搬送を拒否
自宅療養の追跡
都知事選前の大盤振る舞い
ワクチンが来ない!
大規模接種というパフォーマンス
医療人材の無駄遣い

第4章 被災地との絆―東日本大震災の教訓

誰も入らなかった30キロ圏
南相馬市とのホットライン
首都直下型地震への備え
「安全神話」のその後
親日・台湾との友情
幻の南相馬復興五輪

第5章 逆風を耐え忍び―次世代への責任を果たす

保育所の「呪縛」
住民説明会に6時間缶詰
少子化対策の核心は何か
児童館の機能はなくならない
カネ出して口出さず
給食費の無償化は何のため?
道路は不要? 住民のエゴ

第6章 田中流交渉術

保養地型の特養―エクレシア南伊豆
広域連携の地方創生―ミナミイズ温泉大学
歴史的会議の舞台―荻外荘公園
農業と福祉の融合―すぎのこ農園
思わぬ落とし穴―区民がん検診
不正はあったのか―商店街の補助金支給問題
2日でアウト―相次ぐゲリラ豪雨

第7章 地方分権、かくあるべし

大手町と離島のルールは同じでいいのか
23区は児童相談所を運営できるか
23区共通の組織―清掃移管と職員給与
大阪都構想という反面教師

第8章 杉並百年の計

内田秀五郎が遺した功績
杉並最大のまちづくり
狭隘道路の拡幅
不思議な区議会
自治を預かる情熱